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LAP解説(3.基礎となる理論)

(1) オートポイエーシス

オートポイエーシスは、「生物の認識は自身の構造に基づく」という考え方です。1970年代初頭に、チリの生物学者であるウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・ヴァレーラにより提唱された生命システムを対象としたシステム論です。

これまで、生物は体内に形状、色、音、匂いなどの特性情報を検出する専用の神経回路を持っていて、環境が発する様々な情報を分析して客観的に知覚すると考えられていました。これに対して、マトゥラーナヴァレーラは、環境は生物に攪乱をもたらすだけであり、それをトリガーとして対象を知覚するためのニューロンの活動パターンを生起するのだと指摘しました。そして、経験を通して、より多くの適切な活動パターンを体内に形成していくことを構造的カップリングとよびます。これは、生物が学習や遺伝を行なうことに相当します。

オートポイエーシスの考え方を人(生物単体)から組織へと拡大して適用した場合、ニューロンの活動パターンは仕事のプロセスであり、環境は顧客やサプライヤーと考えることができます。また、構造的カップリングはプロセスの改善や改革となります。

 

(2) 言語行為

言語行為は、「人は何かを言うことで何かを行う」という考え方です。1960年代に、オックスフォード大学のジョン・L・オースティンやカリフォルニア大学のジョン・サールにより提唱されました。

それまでは、言語は事実を述べる手段であり、それが真か偽かを客観的に証明できると考えられてきました。例えば、「ビートルズの楽曲は全て優れている」と「イエスタディはビートルズの楽曲である」が真であるとする。すると、「イエスタディは優れている」は真となる。

しかし、言語が話し手や聞き手の行為と密接に関係することがあり、この場合、真偽は意味がなく文脈に合っているか否かが問題となります。例えば、「プレゼン資料を本日中に作成してくれませんか」は仕事を依頼するものであり、「明日昼までに資料をお渡します」は約束を意味するものです。後者は前者の返答であり、そのような文脈の中でのみ適切であるか否かを判断できます。

このように、仕事に関わる人々が話す言語の意図に注目することにより、仕事をいくつかの活動に分解したり分類したりすることができます。その結果、活動の分担や順序が妥当なものかを分析することが可能となります。

 

(3) 解釈学的現象学

解釈学的現象学は、「人の理解は既に知っていること(経験)に基づく」という考え方です。1900年代の前半に、ドイツの哲学者のマルティン・ハイデガーとハンス・ゲオルク・ガダマーにより提唱されたました。

 解釈学とは、神話や聖典の文章がどのような意味を持っているのかを理解する学問です。従来、テキストの意味はテキスト自身の中にあり、背景となる文化や歴史などとは関係ない、と考えられて来ました。これに対して、ハイデガーとガダマーは次のように反論しました。文脈と全く独立した解釈はあり得ない。解釈は既に知っていることに立脚しており、既に知っていることは理解する能力からもたらされる。そして、この考え方を解釈学を越えて人の認知の問題に拡張しました。

これまで、認知のメカニズムを説明する哲学はデカルト心身二元論が主流でした。それは次のような考え方です。世界は、いろいろな対象からなる客観的な物理世界と、個人の思考や感情が働く主観的な精神世界の2つから構成される。認知とは、世界の状況を明確な属性をもった対象として表し、我々の思考や感情に登録する過程である。これを表象モデルとよぶ。

これに対して、ハイデガーらは次のように主張しています。人の認知の中核となるのは客観的な事実の表象ではなく、過去の経験に基づく先入観である。例えば、ハンマーで釘を打つとき、わざわざハンマーの表象を使う必要はない。我々は釘を打つという行為に慣れ親しんでいるから釘を打てるのある。

解釈学的現象学の考え方を組織学習に適用した場合、顧客や商品などの客観的知識だけを対象にするのでは不十分です。仕事の実行を通して得られた経験的知識をいかに蓄積し、共有し、改善するかが中心の課題となります。